文芸社

2012年03月06日

第1章 彼女に不用意に近付いてはいけません

※ある男子生徒の報告1
…2012年5月20日早朝、彼女の登校時刻は少し遅れている模様です。

『石竹 緑青(いしたけ ろくしょう)』が暮らしているこの八ツ森市は東京都に内在されている市にも関わらず、その名の示す通り八方を霊樹が生え並ぶ樹林に囲まれている。
その為、どこか周囲の世界と遮断されたような独特の時間の流れが存在する。7年という月日はこの町になんら影響を与える事は無かったようだ。発展と退廃、伝統と革新、その両方を抱えるこの土地は独特の歩みで町を発展させてきたようだ。その程度の事は彼女の脳内記憶を探れば十分把握出来た。電車の路線も必要最低限しか引かれておらず市内に駅は申し訳程度に3つだ。けど、その分バスは充実しているし近年特例で八ッ森市内を駆け巡る専用の無料タクシーなるものが存在する事には正直驚いた。英国では考えられない。そして7年前はサラリーマンだった彼女のお父様はそのタクシーの運転手に転職されていた。給料は国から支払われる為上々だそうだが、拘束時間は長く彼女と彼女のお父様は同じ家に住んでいるにもかかわらず滅多に顔を合わす事は無い。少し寂しそう。そのお父様と彼の為にはるばる英国から貴族階級に支配される家を飛び出してきたというのに、本末転倒だ。しかも、彼にも結局お近付き出来ないでいる臆病者だ。なんとも情けない、称賛に値する、愛する女王蜂(クイーン)よ。確かに彼、7年前に比べてキュートになったけど、話す事ぐらい出来るでしょ?こっちは幼馴染なんだから。そこを武器にしないでどうするのよ。もたもたしてると、あのちっこい同級生に妻の座を奪われちゃうわよ。

それにしても……生きてて良かったわね、彼。

え、あっ?私は誰かって?宜しい、その質問を許可する。
私は働き蜂(ウォーカー)、『杉村 蜂蜜(すぎむら はちみつ)』の半身、別人格ね。

え?彼女の事をよく知らない?彼女は二重人格なのかって?

うーん……でもね記憶の殆どは共用していて、彼女がとった行動も、私が表面化していない時でも覚えている。簡単に言えば、同じPCを共有しているのだけど、アカウントは別扱い…みたいな感じかな?それに、彼女(女王蜂)と私(働き蜂)の間にはいくつか成約があって、全てを共有化出来ている訳じゃない。プロテクトがかかった記憶は覗けないし、勝手に表面にも出て来れない。私が表面化出来るのは彼女がピンチの時だけ。だから今私
が表層化されているって事は今、ピンチのようね。

よく解らない?まぁいいわ。
こうして主である女王を守る為に生まれ、存在している事は事実だもの。
その事は誰も否定できまい。

っと、脳内整理はこの辺にしておくとするか。今私が考えなければいけないのはこのわらわらとゾンビの様に湧いて出て来る餓えた童貞(多分)共だ。女王蜂にとって敵か味方か、有害か無害か、それが大事。うん、眼がハートマーク、下心満載だ。うちの女王蜂はちょっと病んでるけど見た目はお人形さんみたいで可愛いものね。背中に忍ばせているトンファーに手を伸ばす私。このゾンビ共(男共)の対応次第では、腰にあるスタンガンか、腿のベルトに固定してある鋭いナイフが貴方を捕らえるケースもあり得る。女王蜂に危害を加える者は許さない、何人たりともね。最悪あなた達は死んでもいいわ。私にとっては関係無いもの。女王蜂以外はね。あ、ゾンビだからもう死んでるか。キャハッ♪
「さぁ!所属と氏名と目的を答えろ、這い寄るゾンビども!反論は許さない!!」



僕の好きなバーガーショップ「マクドナロド」が他校の近く(お隣の木漏日町の方にある)に出来たのは最近だ。(我が西岡町には誇るべき西岡商店街があるのだがどうも若者向けでは無い気がする)そんな些細な出来事を人生の潤いとするのがこの僕、石竹緑青だ。普通生活最高、没個性君ですから。
今まではハンバーガー1つ食べに行くのにも無料タクシーに乗り、森を越えて東京の都心近くまで進出しなければならなかったのだ。しかもそれで丸一日は潰れるし、くたくたに疲れる。それが、学校帰りに寄れるなんてまるで夢みたいだ。あのトロトロととろける厚めのチーズと胡椒の効いた分厚いベーコンとバーガーパテ、ふっくらとしたバンズ。セットのホクホクポテト。ドリンクはまぁ、近くのコンビニ「ファミリアマート」でも買えるから良いとして……そろそろ現実逃避は辞めて、リアルに眼を向けようか。現時刻は2012年5月20日、火曜日午前8時10分。僕は今2年A組の教室、窓側の最後尾の席にて教壇の上方にある丸時計で時刻を確認している。そして僕の両隣には、同じ心理部(深層心理研究部(仮))に席を置く同級生の「若草 青磁」(わかくさ せいじ)と「佐藤 深緋」(さとう こきひ)が陣取って居る。もうすぐ1限目の英語の授業が始まるというのに、僕を両サイドから小突いてくる。左側を吊り目で優男な若草が、右側を低身長かつ幼い顔つきの佐藤が突く。いくら寝たふりを決め込もうとも、このサイドアタックからは逃れる術は無い。「おい、起きろー、緑青ー」「何ごまかそうとしてんの?現実逃避しないで戻って来
いー」しぶしぶ僕は顔を上げる。「え、何?今日も平和な一日の始まりだよね?大丈夫だ、何も問題無い。担任も特に何も言わずに出て行ったし。」と言いながらも僕は口の端を歪めながら冷や汗を流している。「行って来い」2人の悪友の声が重なる。
しぶしぶ僕は椅子を引き、席から立ち上がる。僕のバトルコマンドの選択肢が[現実からの逃避行]→[幼馴染の同級生の捜索]に切り替わる。両サイドからの敵の攻撃は止んでいる。悪友2人の顔をそれぞれ覗き込むと、諦めろと表情で訴えかけてくる。
「さぁ緑青、お姫様を救い出して来い」「こ、これ以上被害が広まらないように……ね?」
佐藤は、どこか申し訳無さそうにクラス棟3階に位置する我が教室の窓を指差す。
うん、知ってるよ?8時を過ぎた辺りから嫌な予感がしてたよ。どうせ、生徒が数人道なりに倒れてるんでしょ?僕が救い出そうとしているお姫様の手によって。
「あのさ、僕が助けに行くお姫様は十分強いから、騎士が助けに行く必要無くない?」
教室の扉に手をかけている僕は最後の抵抗を試みる。
「逆だよ、騎士(ナイト)。これ以上お姫様による被害を出さない為だ」
隣で小憎たらしく首を上下させ頷く佐藤。溜息を吐く僕。教室を見渡すと38人居るクラスメイトも頷いている。あ、今解った、僕は生贄なんだ。この教室という白の王(キング)がチェックメイトされ無い為に、自ら黒の女王(クイーン)に身を差し出す白の騎士。やめてくれ、精々僕は白のポーン位の動きしか出来ない没個性なキャラだ。騎士の様にトリッキーな動きも出来ない。
「なぁ、若草。遺言だけどさ……俺の棺桶にはマクドナロドのバリューセットLLを同梱して埋葬してくれ……あ、ハッピーセットでもいいや。」「あぁ、隙間全部ナッテリアの太いポテトだけで埋め尽くしてやる」「え、いいの?そっちの方が僕にとってはレア……」
早く行って来い!と佐藤に突っ込まれて僕は走りだす。
1カ月前に転入してきた幼馴染のお姫様、杉村 蜂蜜(すぎむら はちみつ)を救う為に。
いや違うか、歩く凶器杉村蜂蜜から、健全な下心を持った男子生徒を守る為か。

「はぁ……何でこうなったんだろな。ほんの1カ月前までは、再会出来て昔みたいに杉村と遊べると思ったのに。」



僕の在籍している八ツ森市立高等学校は、市内でもなかなかの規模を誇り、茶色い煉瓦造りの壁を基調とした建物は、一番大きい5階建てのクラス棟を筆頭に、教員棟、部室棟と立ち並び、運動場は長距離走とサッカーと野球と槍投げが同時に行える程の広さを誇る。
他には、多目的棟、体育館、室内プール等と専用の棟毎に分けられ、それぞれの棟を煉瓦造りのアーチが設けられた幅の広い廊下で繋がっている。
問題点と言えば、廊下は全て1階にしか設けられていないという事だ。例えば、クラス
棟の3階から、教員棟の3階に行く事は出来ず、一度1階まで階段を降りて廊下を渡り、教員棟の階段を上らなければいけない。 だから未だに姿を現さないクラスメイト杉村蜂蜜の進行ルートを予測するのはまだ容易い。それにまず生徒が寄る所と言えば、下駄箱だ。
土足でそのまま入って来る生徒はまずいない。いや、まぁ、転校初日、杉村蜂蜜は臆する事無く土足で教室に入って来たが。その時は、クラスの皆には悪い印象は無く、少しドジな微笑ましい美少女として認識されていたが……今は見る影も無い。恐怖の対象として畏怖される存在に昇格、いや、降格してしまっている。まぁ、ちゃんと上履きには履きかえるようにはなったけどね。不用意に近付く奴は薙ぎ倒しちゃうけど。例え教師でも。



教室等の1階に設けられた大きな玄関には、棟内に生徒用の下駄箱が立ち並ぶ。その中で、2年A組の場所を目指す。教室を出てから5分程度で難無く辿りつく。ここまでの道のりで彼女と遭遇する事は無かった。彼女は3箇所ある階段のうち、中央階段は通って居なかったと言う事になる。杉村蜂蜜の姿を確認する為に、彼女の上履きがある所まで急いで行くと、深緑色のブレザーが目に入る。違う。彼女の制服は、まだ新しいものが新調出来ていない為、英国に居た時の紺のブレザーをそのまま着用している。それに白い袖の部分の上にある白いラインが2本引かれているという事は、男子生徒だ。ちなみにブレザーのデザインも、女子と男子では違う。女子のは、4つボタンのピーコート風。男子は2つボタンのダブル風で、女子のブレザーよりはやや明るい深緑である。着用しているネクタイは、緑という事は……3年生。上級生という事か。「あの、ちょっと、先輩?倒れて気を失ってるとこ悪いんですけど、起きて下さい。授業も始まっちゃいますよ?」
何度揺さぶっても起きない。一応、脈と瞳孔を確かめる。うん、命に別状は無し。身元不明の先輩……彼女風に言うと、下心を持って近付いて来た男=ゾンビ。改めて状況を確認して見る。杉村の開いた下駄箱。そこにあるはずの靴は無い。下履きも上履きも。ん?下履きって表現合ってるかな?まぁいいや。ゾンビ……いや、この先輩に握られている手紙は恐らく愛の手紙ラブ・レターなるものだ。
多分彼女は、自分の下駄箱に爆発物か何かを仕掛けられたと不審がって彼を叩きのめしたんだな、きっと。けど、靴を履き替えたのなら、どちらかの靴は残るはず……。
どちらも無いって事は、杉村自身がどっちかを履いて、残った方の靴を持ち運んでいる。持って帰って洗うんだったら、下校時だし、そのパターンは考え辛い。
辺りの地面を見渡すと、特に汚れた様子は無い。土埃も特に無い事から、上履きには一度履き替えたのかも知れない。これで、陰鬱な虐めにより、上履きを隠された線は消える。なんせ正面切って立ち向かって行ったら、余裕で捩じ伏せられる戦闘力の持ち主だものな。体力自慢の体育教師が杉村によって意図も簡単に叩きのめされた件でそれは皆に知れ渡っている。だから、はみ出し者に制裁を与えるとしたら、裏掲示板に悪口を書くか、在りも
しない噂を流すか、何かの所有物を隠すぐらいだものな。生憎そんなのはあいつは気にしないし、上履きが無かったのなら、下履きで校内を平気で歩き回るしな。清掃員泣かせの異名を持つ位だからな。なら、あと残っている可能性と、状況を合わせるとだ……。
杉村蜂蜜のファンが、杉村の上履きを隙を見て持ち去ったというケースだ。ストーカーには悪いが、うちの学校の下駄箱には1つずつ専用の鍵とダイヤルが設けられているから、本人以外が開ける事は難しい。だから、上履きに履き替える瞬間を狙って杉村のファンが靴を奪ったのだ。危険極まりない彼女に近付け無いなら、せめて彼女の所有物を傍に置きたいと……アイドルでも無い高校生がそんな事をされるとは普通は思わないのだが、彼女ならあり得るケースだ。今でこそその数は減ったものの、転入当初から、その美貌を輝かせていた彼女の回りには、一目見たさに常に取り巻きで溢れかえっていた。だから、その熱烈なファンの生き残りが彼女の生靴を奪い、ス−ハ−しようとして半殺しにされ……うわ、やばい。急がないと、死傷者が出てしまう!



玄関から外を除くと、校門から運動場を挟んで校舎まで綺麗にゾンビ…いや、男共が将棋倒しに地面に寝転がっている。ピクリとも動かない。

その綺麗に並んでいる隊列は、中央玄関を逸れ、東側の入口へと続いていた。

「推測するまでも無かった。倒れた男を辿れば杉村蜂蜜に辿り着く……か」

まだ上履きの僕は、外からでは無く、中の廊下を駆けて東側にある入口へと足を運ぶ。

クラス棟東側階段1階に辿りつくと、杉村の片方のブーツが転がっていた。
普通の女子高生は、制服にローファーを合わせるが、彼女の場合はブーツ……しかも女性が履くオシャレなブーツとはかけ離れていて、例えば密林などの湿地を闊歩するのに適したデザインの方だ。とりあえず、左のブーツを抱えて階段を上がっていく。
次に右足のブーツに出会ったのは、丁度2階から3階への折り返し地点の所だった。
そこでふと気付く、先程まで散々倒れていたゾンビ共が一体も倒れていない。
「杉村が……倒された?」辺りをもう一度御入念に見渡すと、階段のスペースから廊下に差し掛かる地点に銀色に光る物体が目の端に見えた。「え、これって…ナイ……フ?」「どうしたんだい?石竹くん?」間髪入れずに後方から声がかかる。慌ててナイフを上から足で踏みつけてその存在を隠してから後ろを振り返る。そこには丁度階段を上がってくる途中の英語の教師「小川(おがわ)」先生が居た。彼は30代のアメリカ人と日本人のハーフの男性教員でその長身と健康的な容姿と巧みな話術で女子生徒の人気も高い。赤いフレー
ムの眼鏡の奥で不振がる視線が僕を貫く。赤フレームの眼鏡なんて、男性は似合わない。それは女子の必須アイテムだ……とかいう考えを見抜かれたかどうかは別として、この場を誤魔化さなければ。
「えと、これは……その……」しどろもどろになっている僕の肩を叩く小川先生。「もうすぐ僕の授業が君のクラスで始まるのに、こうして外に出ているって事は……また、彼女だろ?」素直に頷く僕。さすがもの解りがいい。が、ナイフには気付かなかったようだ。実は、彼女の件については他の教師もその問題性を認識してはいるが、彼女の特性や立場がその問題を難しくしている。そこで、幼馴染という情報がどこかから漏れて(多分あの心理部の顧問だ)、この僕に白羽の矢が立ったという訳だ。だから僕は例外的に授業中だろうが彼女を保護する許可を得ている。要らないのに。何故かは解らないが、彼女は僕の事を覚えていないはずなのに、危害だけは加えられた事の無い唯一のゾンビだからだ。あ、女生徒でも彼女は平気で叩きのめします。「まぁ、たいへんだろうが、今は頑張ってくれ。今日授業を受けられなかった所は、若草か佐藤、クラス委員長にでも聞いといてくれ、僕からも伝えとくしね」僕は礼を言うと頭を下げる。手を振り、歌を口遊ぶ小川先生。一度深呼吸をすると、慌てて足底にある銀色の物体を拾い上げる。そこには刃渡り15cm程度の柄の無いナイフ鈍く光を放っていた。そしてそのナイフには僅かながら血痕が付着していた。慌てて自分の指を確認するが切れている所は無い。脱ぎ捨てられた彼女の靴、そして血の付いたナイフ……普通なら、この先に待ち構えているものとして、杉村の変わり果てた姿だが……まずそれは無い。うん。

僕の見立てでは、彼女に敵う人間等居るはずが無い。確か彼女のお父さんは裏社会では最強の元傭兵で、その技能を完全に引き継いだのが杉村だからだ。同じ様な訓練は、僕も確か7年前に受けたのだけど、その片鱗は僕には現れなかったらしい。それにあの真面目そうなあのお父さんが傭兵など疑わしい。だって、今は無料タクシーの運転手だしね。今も昔もずっとこの町にいる彼女のお父さんからはそんな雰囲気は全く感じないのだけど、彼女の強さだけは本物だ。ミリタリーマニアだった彼女はきっとこの7年間、英国で特殊訓練でも受けていたのに違いない。推測だけど。

さて、どうするか。彼女はもしかしたら入れ違いで教室に戻っているかも知れないけど、さすがにこの僕の持っているブーツを置き去りにするはずはない。なら、やはり上の階を目指すか。と、ナイフを胸ブレザーの胸ポケットにしまい、腰に手を当てて上の階を見あげる。そこに3階の方から人の声が聞こえて来る。「……は、なんだ?!答えろ」「…はただ……」男子生徒と女子生徒の声、恐らく一方は杉村蜂蜜のものだ。相変わらず澄んだ声だ。凄みはあるけど。そろそろと3階への階段を上っていくと、そこには男児生徒を地面に叩きつけて跨る様にして襟を掴み、その右手のナイフを相手の喉元に突き付ける杉村蜂蜜の姿があった。幸い相手の男子生徒に命の別状は無い。黒いスラックスの太腿の所が一
直線に切り裂かれている位だ。血はほとんど出て無い。ナイフを突き付けられている男子生徒は黄色いネクタイを着用している事から1年生だと判る。顔つきもどこか幼めである。杉村蜂蜜の激が飛ぶ。「もう一度聞く!所属と氏名、目的を答えろ!」気の性か優位なはずの彼女の声は焦っているようにも思えた。「だから、言ってるじゃないですか、八ッ森高校1年生、鳩羽 竜胆(はとば りんどう)。貴女のファンなんです!」杉村は何か躊躇しているように、ナイフを引っこめようとはしない。「敵か、味方か?」「ファンなら、味方でしょ!?」と半ば呆れ気味に答える少年。無駄だよ、その子には常識は通用しない。

「ちょっといいかな?お2人さん?」僕が声を鋏むと、何かいけないものを見られた様に慌てて杉村が少年から身を離す。そして彼女がお決まりの台詞を僕にも下す。
「所属と氏名を答えて……」「僕は君のクラスメイトの、石竹緑青。君は覚えて無いかも知れないけど、これで名乗るのは5回目。昔を合わせると6回目だ。」

「……目的は?」「君を教室までエスコートしに来た。お姫様?」その言葉になんだかよくわからない反応を示す杉村。改めて視線を倒れている彼に合わせる。「君……一年の鳩羽くんだっけ?彼女のファンだからって、不用意に近付いちゃいけない、死ぬよ?」
「いいんです、彼女に殺されるなら本望です」「……」「な、なんですか!先輩!その冷やかな目は!それに先輩ずるいですよ!いつも何かあれば先輩が彼女を連れ戻したりして、しかも校内で公認のカップルだ、羨ましいです!」「いや、僕はたまたま彼女の捕獲係を命じられているだけで、恋人ではない」きっぱりと否定する僕、だって名前も覚えられていないし。その答えに微妙な表情をする杉村。対する少年は、怒りを露わにした表情をする「嘘だ、先輩は確か……石竹緑青先輩ですよね?噂では彼女の幼馴染って……」その言葉を遮るように口を鋏む僕「はいはい、そこまで。君ね、いくら報われない恋とはいえ……女の子の下履きを持ち逃げして、スーハーしようとするのは、よくない、不健全だ」あれ?2人が沈黙したように固まる。
「え、いや、先輩?僕は何も……靴は持ち出してませんよ?靴を持って僕を追いかけてきたのは、杉村先輩ですし……それを僕に投げつけたのも杉村先輩です。なぜ靴を持って僕を追いかけてきたのかは謎ですが……」杉村蜂蜜の顔がみるみる赤くなっていく。近付いてくる杉村、どこにどう隠しているかは解らないけど、背中に収納しているトンファーを取りだし、両腕に装着。「私が靴を持って歩いていたのは、怪しい男が私の靴箱に何かを仕掛けた気配があったからだ。それより、貴様!私の靴を大事そうに抱えて……まさか……」彼女は全てを言い終わらないうちに、何の迷いも無く僕に振り下ろした。視界から全ての世界が一瞬にして消えた。あれ?僕は殴られないと思ったのに、違ったみたいだ。報告書、訂正しな……い……と。僕はその場に倒れ込んだ、と思う。

※ある男子生徒の報告2
…報告書の改定を申請します。彼女は、僕(石竹緑青)の事も攻撃します。

第2章へ続く
posted by 管理人哀原 なつき at 14:40| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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