文芸社

2012年03月26日

第3章 心理部の課題

※ハニー=レヴィアン

私はずっと追いかけられている。あいつがまだ私を追い駆けてくる。
私を天使と呼ぶあの男が怖い、そして憎い。あいつの性で私が私自身じゃ無くなるのが恐ろしい。あの時私は……あいつを殺せばよかったのかな?
私は何故こんなにも苦しまなければいけないのだろうか。私は勝ち取ったはずだ。死の淵から未来を。誰にも私の未来は渡さない。誰にも。でも……渡すとしたら彼にだけ。だからこそ、今はまだ駄目。彼に近付き過ぎてはダメ、彼の未来を私は奪ってしまうかも知れない。それが怖いの。まだ私にはやり残した事がある。それまでは……その時までは……。



職員棟1階カウンセリング室にて。
深層心理研究部員とその顧問はお菓子を交えながらの活動に勤しんでいた。

「ランカスター先生、毎回出るここのお菓子って先生の実費で購入しているんですか?なんか悪い気がして……」「あっはは。面白い事言うのね、佐藤さんは」「まさか……」長机の上の洋菓子に手を付けようとしていた佐藤の手が止まる。

「もちろん部活動の費用から出てるわよ?あ、安心して?ティーセットは私物だから」
紅茶と供に用意された上質な甘いケーキ類は部費で賄われていたようだ。

部活動開始から約一カ月位経とうとしているが、未だ名称の後に(仮)が付いている。部活としてはこの先の存続が危ぶまれる状況だ。それにこの部活は何を目指して創られたものなのだろうか。文化祭とか何をするんだろ。

実は、この僕、石竹緑青は去年まで“軍部”という戦争研究、戦争根絶(イ0リア計画か!)を目的とした部活動に所属していたのだ(残念ながらCBでは無い)、生徒会の査察により、ただの単なるミリタリーオタクの同好会と化している事が明るみになり廃部にされた苦い記憶がある。まぁ、戦争根絶を真剣に考えていた僕としては、モデルガンを研究用資料として
買い漁っていた部員には愛想が尽きていた。ので幽霊部員と化していた僕は特に学校生活に支障は無かった。
ちなみに軍部では部員に階級が言い渡されるのだけど、僕は「捕虜」だった。軍部が存在する1年前に杉村蜂蜜が転校して来ていれば恐らく確実にその部に入っていただろう。彼女の趣向が変わっていなければだが……愛用しているジャングルブーツや、小型ナイフから察するにそれほど趣向は変わっていなさそうだが、聞きそびれた。

それにしても生徒会の人間が査察に来たら恐らく「軍部」と同じ様に一発でアウトだ。僕の右斜め前に腰かける若草青磁は呆れた顔で顧問を窘めている。「そんなんだから深層心理研究部の名称の後に(仮)が付けられていて、未だに取れないんですよ。だから他の花形の部員に馬鹿にされてるんですよ。」「そうね……ランちゃん反省」「でも、よく同好会レベルで部費が出てますね?」と佐藤。

「あ、うん。それはね……部費というか、治療代という枠組みで予算枠が出てるから、そっからお菓子代を捻出しているの」「え、いいんですか?それ?」と僕も突っ込む。

「……治療にどうしてもお菓子が必要になったって言えば問題無いわ。私の編み出した心理療法のひとつ“お菓子療法”よ!」「…私達って患者扱いですか!?」……テヘッと舌を出しお茶目に誤魔化そうとする顧問のランカスター先生。
かわいくない!と総突っ込みをする部員3人。少ししょんぼりした様に咳払いをして仕切り直しをする先生。本題に戻りましょうか。と先生。「前回の全体的なテーマについては、性格と深層心理分析についてだったのだけど、その後、個別に決めた各々の課題については覚えている?」「はい!私の課題は“犯罪者の心理について”です」佐藤が何故か嬉しそうに答える。「俺は、“15歳以下の女の子も落とせる恋愛心理学について”……」「青ちゃん、先生そんな犯罪に加担するような課題を与えた覚えはないわ。

貴方に与えた課題は貴方が最も嫌う“嘘”についてでしょ?」あれ?そうでしたっけ?と惚ける若草青磁。

「……」自分の課題をなかなか言い出す事が出来ない僕。だって、だってさ……先生と僕との間で決めたこの課題って……まるで……。「あれ?どうしたの?石竹君?」「俺達はまだお前の課題を聞いてないけど、課題内容忘れたのか?緑青?」言い淀む僕を尻目にあっけらかんとその課題内容を晒すランカスター先生。「あぁ、石竹きゅんはいいのよ。課題はもう決まっていて実践中だから。簡単に言うと“幼馴染の観察日記”よ!」ええぇ!ここにストーカーがいるっ!!と騒ぎだす若草。

「……幼馴染って……実家が喫茶店開いている関係で、私も一忚石竹君とは幼馴染何ですけど……まさか……」佐藤が困惑した表情を僕に向ける。

佐藤の実家は町内で喫茶店を経営している。昔、叔父さんが佐藤の両親に会いにいく度にそこに連れて行かれて、店先で1人遊んでいる彼女を時折見かけていた。仲良くなったのは何時頃からだっけ?当初は全く話さなかった……というか、不審がられて避けられていた気がする。まぁ幼馴染と言えば幼馴染か。僕は正直に答える。「ばれたら仕方無い。実は、僕の部屋の壁には佐藤の隠し撮りした写真で埋め尽くされてるんだ」「警察に電話しなきゃ」すぐさま携帯を取り出して真顔で連絡しようとする佐藤を慌てて止める若草青磁。本気にされた事に少しショックを受ける。

若草が横から佐藤を宥める。「親友の俺が保証するよ、石竹の性的趣向は残念ながら“年上のお姉さん”だ。」何故か頬を赤らめるランカスター先生。佐藤は携帯の番号発進ボタンから指を離す。あ、やばい。そういえば昔佐藤の家族が何かの事件の被害に合ってそれ以来警察とは深い関わりがあるって風の噂で聞いた事がある。「心理部として嘘も見抜けない様じゃ恥ずかしいぞ?」と若草。悔しがっているのか、怒っているのか解らない表情をする佐藤。「明らかに緑青の顔は冗談ですって顔してただろ?な、緑青?」え、そうなのか?やはり親友には僕の嘘はバレてしまうようだ。「いや、ほら私って両親の喫茶店でバイトもしてるしそこで時々写真とかお願いされるから……毎回断って居るんだけど、その類いかと思って……」と何だか自慢にも聞こえる弁明する佐藤。佐藤の喫茶店には僕も若草もよくお世話になっている。そんな客が居たなんて初耳だ。

「幼馴染であり、観察の必要性があると言えば、彼女の事に決まっているだろ?」と若草。うん、正解。僕はランカスター先生から、杉村蜂蜜の監視を言い渡されているのだ。これ、課題になるのかな?っていう疑問は置いといて、その意図が全く解らない。それより本人にばれたら……気絶どころじゃすまない。命懸けのミッションでもある。佐藤を落ち着かせるランカスター先生。

「まぁまぁ、落ち着いて。安心して?これは石竹きゅんの自主的に希望した課題では無く、私や学校側から出された指令なのよ。」「指令?」不思議そうな顔をする佐藤。「君達、彼女(杉村蜂蜜)の危険性は認識してるわよね?」若草と佐藤が見合わせて頷く。「確か……4月の終わり位かな?その頃から様子がおかしくなり出したのは。クラスでの授業……教室を離れなければいけない授業は完全に否定していたんだよな?」と若草。

何かを思い出しつつ佐藤がそれに続く。「うん、そして……いつだったかな?ある日の体育の授業中……無理矢理杉村さんを外に引っ張りだした体育教師が……皆のいる前で倒されて
しまう出来事もあったのよね」

佐藤が自分は直接見て無いからよく解らないといった顔でおぼろげに答える。その顔は何故か罪悪感に怯えた様な表情をしている。

一呼吸間を置いて、他の2人から注目されているランカスター先生はこちらを一瞥する。それに倣う様にこちらに視線が移行する。「僕から説明する、直接見てたし。……彼女はあの日、無理矢理体育の授業に出席させられていた。けど体調不良を理由に見学、それをサボりだと受け取った体育の前田は彼女を叱りつけて、無理矢理体操着に着替えようとさせたんだ。」「え、それって、脱がせたってこと?」「違う違う、脱がそうとしたのはあくまで上着のブレザーだけ……って事になってますよね?」とランカスター先生に視線を送る。それにやや迷いつつも頷く先生。

「多分、その時杉村の心の中の防波堤か何かが決壊したんだと思う。彼女は、両肩に置かれていた前田の手を両手で振り払うと、右のつま先で前田の腿に蹴りを入れた後、顎への掌手の一撃を喰らわせる。そして気を失った前田をそのまま地面に背中から叩き落とした」暫くの沈黙の後、若草が口を開いた。

「確か、噂では大腿骨骨折と、打撲、むち打ち状態で全治2ヶ月の怪我で入院。そのまま転勤したって話が……」僕もランカスター先生に注目する。「そう。彼はその時のショックで教師の職務を辞職、今頃は田舎に帰って療養中よ。しかも不思議なのが怪我を負わせた当人に一切のお咎めは無し。当初はそれに対して厳しく彼女を批判する教師も何人かはいたんだけど……」曇った表情をするランカスター先生。

「いたけど?」と復唱するように疑問を口にする若草。「体育の前田先生が大した訴えも起こさず、身柄を違う病院に移した事。そしていつの間にか学校側の職員名簿から彼の名前も消えていた……そう、まるで誰かが彼を消し去ったように。その件からかしら、彼女に近付く教師が居なくなったのは。教員の間で、噂が広まってるのよ、彼女に近付いてはいけないって。」
あともう1つと僕が付け加える。
「杉村自身は何も語らないけど、もしかしたら前田先生にも何らかの過失があったんじゃないかって話もありますよね?教師という権限を使い、悪意を持って彼女を着替えさせようとした」うん、悪意=下心ねと補足しながら答える先生。「どちらにしろ、こんな田舎だもん。すぐに噂は広がるけど、当人は何も語らないから結局真相は解らないまま。その事が彼女への警戒心を増幅させている。担当医としては残念ね」怯えと戸惑いの表情を浮かべる若草と佐藤。

「担当医?顧問では無くて?」と佐藤。

「うーん……担当医が患者の情報を本人の承諾無しに第三者に開示する事は良くない事なんだけど……彼女は何らかの精神的疾患を患っているとだけ言っておくわ。私が英国で専属のカウンセラーとして任命されたのが丁度7年前。彼女を私は追ってきたっていう訳」「7年前……」と意味有り気に呟く佐藤。

7年前って言えば、確か……僕の前から姿を消した頃だな。そうか、帰国してたんだな。確かにまぁと若草が口を開く。「最近の彼女の言動や、行動、暴力的行為は不思議ちゃんを越えて、まさに修羅だもんな。普通では無いわな」「幼児愛者のお前もな」と軽く一言添える僕。 俯いていた佐藤が青白い顔を上げて先生に疑問を投げかける。「なんでわざわざ彼女を日本まで追いかけて来て、スクールカウンセラーにまでなったかっていう疑問は置いといて……7年も彼女の担当医をしていたのなら、わざわざ石竹くんに彼女の観察をお願いする必要は無いんじゃないですか?」

暫くの間があった後、探るように言葉を繋ぎ合わせていくランカスター先生。「彼女はね、私が出会った当初、誰も手が付けられない状態だった。私は7年を費やしてようやく彼女の症状を緩和する事が出来たの。安心した矢先の失踪。
彼女は実家から姿を消して日本にやって来た。どんな手を使ったかは解らないけど、彼女は父方の姓を名乗り、八ッ森高校の“杉村蜂蜜”として在籍していた」もう慌てたのなんのって。とお手上げのポーズをとる先生。

「彼女のお母様は多忙な方で、身動きが取れない方なの。だから私が保護者の、彼女の代わりとして日本にやってきた訳なのよ。最初は強制的に彼女を連れ戻そうとしたんだけど、強く拒否されてね……まぁ症状も安定してるし、最初は安心していたの」最初は?と顔を見合わせる僕以外の部員2名。「貴方達も2年A組なら知ってるわよね?4月20日の学校で起きた事件」頷く佐藤。「確か4月の中旬頃、深夜に2年A組のクラスに不審者が侵入して、窓ガラスが全て割られ、黒板には赤のカラースプレーで大きく『天使様、何故私を浄化して下さらなかったのですか?』って書かれていた事件だよな?」と若草が同意を求める。「その事件が切欠で彼女の様態が悪化した?」と佐藤。「……そうだ……と言いたい所だけどね、その事件の直後、危険だと判断した彼女を私がカウンセリングしたのだけど、別に変わった様子は見られなかったの。だから先生も安心しちゃった。5月に入ってからかな?彼女の元々持っていた偏執病……パラノイアの兆しが見えてきたのは」佐藤が再び疑問を投げかける。「再発なら、先生が治せるんじゃ……」溜息を吐く先生「それがね、少し前とはパターンが違うのよ。私や彼女のお父様と話す時は至って普通なの。けどね、少しでも警戒心を現すと彼女に別の人格が現れるようになったの。

これを医学的に見ると、過去の強烈なトラウマが引き起こすPTSD(心的外傷後ストレス障害)が原因で引き起こされる解離性障害の一種“解離性同一障害”と判断する事が出来るのだけど……」疑問符が一杯の僕達。

「貴方達に解り易く言うと、多重人格障害……二重人格って奴よ」息を飲む部員。「そんな事が実際にありえるんですか?」と若草。「あくまで医学的な推論に過ぎないの。けど彼女が過去に受けたトラウマから考えるとそれが起きてもおかしくない。けど不思議なのは7年前の症状とは別の形で現れた精神疾患……そこがどうも腑に落ちないのよね。だからそこで、彼の出番って訳」と僕に指を指すランカスター先生。注目する他2人。僕は溜息を吐きながらそれに答える。

「まぁ、先生や彼女のお父さんが彼女に接触しても得られる情報は意外と少ないんだ。なんせ安心しきっているからもう一つの人格は現れてくれない。かと言って、他の人間が近付いて彼女のもう一人の人格と接触を試みようとすれば……」「病院送り」と佐藤。「だから、昔、長い時間を共有した幼馴染という微妙な境界線にいる僕なら、もしかしたら何らかの手がかりを入手できるかも知れないって言うのが先生の魂胆なんだよ。だから僕は良識あるストーカーに転職したって訳」「なら、緑青は職業欄にストーカーですって書かないとだな。」と笑う若草。僕は将来が不安になった。佐藤はよくわからない表情をしている。笑い事じゃないと僕は抗議する。

「さぁ、石竹きゅん、貴方の口から聞かせて?彼女を観察した結果を」
僕はしぶしぶカウンセリング室にあるロッカーから、自分の報告書を引っ張ってくると、それを改めて確認する。もちろん個人情報に関する事なのでマル秘扱い。ランカスター先生が治療の為使用する必要が出て来た時以外は、誰にも見せるつもりは無い。僕は当り障りの無い所だけを口頭で説明する。ここに記載されている彼女のデータは、あくまで5月18日現在のもの。(最終更新日)のものだ。(現時刻は2012年5月20日なので、新たに発見された彼女の新しい武装、プレート型ナイフに関する記載と、僕への殴打の記録はまだ無い。後で更新しておかなければ)あと、僕と彼女の間にあった7年前の交流についての情報も一切含まれていない。



2012年5月18日現在

〜「杉村 蜂蜜」に関する生体報告書〜
作成者:石竹緑青


八ツ森市立高等学校第二学年A組石竹緑青が、観察対象「杉村蜂蜜」に対する生体記録を以下に記す。尚、当情報は個人情報に該当する為、本人又は担当医であるゼノヴィア=ランカスター及び、幼馴染(ストーカー)である石竹緑青の許可なく第三者に開示する事を固く禁止する。



対象者氏名:杉村 蜂蜜(すぎむら はちみつ)
年齢:17歳
性別:女
生年月日:確か冬生まれ……12月22日だった気がする。
身長:158cm位?小さいめの佐藤よりは少し高い。
体重(総重量):?kg(+5kg)←トンファー等の装備品を合わせた重量
容姿:ベージュがかった金髪(蜂蜜の様な色合い)と緑の瞳を持つ。(緑青色)
家族構成:イギリス人の母と日本人の父を持つ。その他の家族構成は不明。
主武装・トンファー×2−背中に装備
 (外観上は解らない。どうやって出してるのかも解らない)
 ・特性のスタンガン−腰に装備
 ・プレート型ナイフ(皆には秘密)
生体:自らの防衛領域に侵入してきた者に対して原則的に3回彼女から勧告が出される。それらの回答内容によって本人に悪影響を及ぼすと判断された場合は誰であろうが迎撃される。今の所、彼女の勧告に対し、被害の無かった男子生徒は石竹緑青(本人)のみである。(←修正の必要有り?)防衛領域=パーソナルスペースとして考えると彼女との信頼感によってその対忚は変わる。 

勧告内容(その時々によってニュアンスは異なるが、基本的な質問内容は共通している)
 1回目『所属と氏名を答えろ』
 2回目『目的はなんだ?』
 3回目『敵か味方か?』
尚、これらの勧告は、杉村自身が他者に対して近付く場合には適忚されない。
そしてこれは推測だが、これらの質問に対して一見完璧な返答をしたとしても、彼女からの制裁を受ける者が続出している事から、もしかしたら彼女はこれらの質問を答えさせる事により相手を観察する時間を稼いでいるのかも知れない。し、特に意味は無く、気分次第なのかも知れない。そしてこれらの行動は、彼女のもう一人の人格からくるものかも知
れないという推論が、顧問のゼノヴィア=ランカスターによりなされている。
そして最も注意すべきなのは、勧告への回答無しで、彼女に触れる距離まで一気に近付いた場合だ。運が良ければ生き長らえる事が出来るだろうが、恐らくその望みは少ないだろう。そんな気がする。尚、他生徒等の安全性を考慮し、石竹緑青は今後も観測対象者杉村蜂蜜を監視し続けていく事を誓います。(石竹)(←無理矢理捺印させられた。)

以上


(1/1)



「とまぁ……今、僕が彼女について解っている事はこれ位かな?」(一部隠匿。)
御苦労様石竹きゅん、と顧問のランカスター先生は僕の頭を撫でる。やめて。照れ臭い。

posted by 管理人哀原 なつき at 21:11| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

メモ目次へ戻る
家ホームへ戻る
本アドノベルホームへ戻る
アートスキルアートギャラリーホームへ戻る
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。