文芸社

2012年04月04日

第4章 心理部の3人

例年に比べ寒い日が続いた3月終えて4月に入ると、それまでの寒さは嘘の様に身を潜め、穏やかな日差しと暖かい風が八ッ森市に流れ込んでくる。八ッ森市立高等学校2年へと無事上がる事の出来た石竹緑青は新たな生活の始まりに僅かな期待と、何も変わらないのだろうなぁという極僅かな倦怠感と供に登校する。

始業式が終わると元1年A組だった面々は2年A組へとクラスを移動させられそこで新しい名札と上履き、ネクタイ、リボンが改めて生徒に配付される。1年のシンボルカラーが黄色であったのに対し、2年は赤色である。ちなみに3年生は緑色である。上履き等もそれらの色分けに沿った形で区別化されている。
石竹緑青のクラスは2年A組、1年の時と比べて代わり映えのないクラスメイトだったが、そこには確かに平穏な雰囲気が漂っていた。馴染みの顔だが、まだまだ全員と仲良くなった訳では無い。運良くこのクラスにはいじめ等も無く、去年は平穏な1年を過ごす事が出来た。そしてまた、今年もその1年が間違い無く繰り返されると誰もが信じていた。この時は。石竹緑青が辺りを見渡すと、A組41人が過不足なく席について居る。石竹が座る席は廊下側の列、前から2番目。まだまだ弱い朝陽が3階のクラスの窓から注がれている。その柔らかな光景に幸せを覚える石竹緑青だった。
1人微笑む石竹に対し、名前の順番でたまたま横の席に着席していた幼い顔つきの佐藤深緋と眼が合うと、彼女は口パクで“気持ち悪い”と伝える。顔は笑っている事からそれが本気では無いと石竹には伝わる。彼女も又、新しく始まる高校2年生としての生活に何かしらの期待をしているように彼には見えた。

担任の教師である 荒川 静夢(あらかわ しずむ)から生徒への話が終わると、その日はそのまま解散と言う事になった。

石竹が帰宅の為に鞄の中へ配付された品々を詰め込んでいると、佐藤深緋から声をかけられる。「今日さ、折角春休みも終わって学校生活がこうして始まった訳だけど、久しぶりにうちに寄ってく?それとも部活だっけ?」と聞かれ、それに対する返答として首を横に振る石竹。「あの部活は去年の決算時に生徒会によって叩かれて、廃部が決定したんだ。だから僕は暇人って訳だよ。だから問題無い」それは好都合、と笑う佐藤。「確か、“軍部”だっけ?あのミリオタの集団……あ、いけない、石竹君もミリオタだっけ?」「違う違う、僕は真剣に戦争をこの世から無くそうと考えて入ったのだけど……中身はその逆で、戦争
に憧れる少年達の巣窟だったよ」「それは残念ね」あまり興味無さげに話を切り替える佐藤。「えとさ……実はね、今日から実家の喫茶店で働く事にしたのよ」「え、働くって……バイトって事?」少し照れくさそうにする佐藤。

「ほら、もう高校2年生だしさ、いつまでも甘えていられないしね。それに接客経験とかしとけば将来役に立つかな…なんてね。」温い高校生活を満喫しようとしていた石竹緑青とは対照的である。閉鎖的で緩やかな時間の流れの中にいるこの町の者にとっては無理に働こうとする習慣が無いのか、クラスの中でも現在バイトしている生徒は1割にも満たない。「僕なんか、まだ伯父さんの好意に甘えまくってるからな」「けど1人暮らししてるのよね?」「まぁ形だけはね?」「形だけ?」「食べ物は適当に見繕っているけど、月々の食費、光熱費、家賃は負担して貰っているし、おこずかいも1万円くらい貰ってる。そんで週に一度やってくるお手伝いさんに掃除とか洗濯物も任せっきりだからな…」と石竹。「石竹君って……自立しているような、していないような、よく解らない立ち位置ね。学校でも」何気に心に深く刺さる佐藤の言葉に石竹は少し元気を無くす。それに気付いた佐藤は慌てて石竹の自尊心をフォローしつつ、今日の依頼内容を話す。

佐藤の依頼を簡単に説明するとこうだ。
自宅の喫茶店の接客の練習を石竹緑青で行おうというもの。
本人曰く、家族相手だと照れくさいし、情連のお客さんには迷惑かけられない。そんでもってあまりかっこ悪いとこは見せたく無い。見せるなら、仕事が出来るようになってからだそうだ。放課後、佐藤にしばらく付き合う事になった石竹緑青は本来なら面倒な依頼内容にも関わらず、面倒臭そうな表情と仕草は一切無い。

こいつなら俺の変な話にでも、聞いてくれるかも知れない。そんな予感がした俺は他のクラスメイトとの別れを済ますと、校門を出ようとしていた2人に声をかけた。

「なぁ、石竹と佐藤」

ゆるゆる歩く2人に声をかけると、少し驚いた様にこちらを振り向く。
まぁそうだわな。同じクラスメイトとしてたまに話す事はあっても、そんなに深い仲では無かった。別に俺はクラスで浮いている訳では無いが、俺の本性を話した事は誰にも無い。いや、あるけど理解されなかったのだ。少し戸惑いながらも、俺の名前を石竹は口に出す。
「えっと……何か用事?若草くん」

佐藤と石竹に自分も付き添いたいという俺の旨を伝えると、石竹は快く了承してくれた。
少し佐藤は迷惑そうな顔をしているが、まぁ問題無いだろう。
「若草くん、でも今から私の親が経営している喫茶店って市内を南下しないといけないし、駅からは反対方向になるのだけど大丈夫?遠回りじゃ…」

「大丈夫、俺の家は商店街の近くだから、少し横道を逸れるくらいだよ。石竹は家どのあたり?」「あ、僕は紫陽花公園の近くのマンションというか……佐藤の自宅から15分位歩いた所かな?」「紫陽花公園…確か、あのたくさん紫陽花が咲いている小さい公園だよな?昔ばあちゃんに連れられてよく行ったなぁ……もしかして知らない間に俺達会ってるかもな」という俺の質問に微妙な表情をする石竹。その表情の意味する所は俺には解らないが大した問題では無いか。
「商店街の方か……あの辺の雰囲気はいいよね。西岡駅周辺の繁華街とはまた違った味わいがある。マクドナロドは無いけど」
石竹緑青という人間は随分年寄り臭い雰囲気というか、ぬるい人物のようだ。けど嫌な感じじゃない、むしろ好感が持てる。そういう雰囲気にこの佐藤って子は惹かれているのかな?で、なんでマクドナロドに拘るんだ?確かに八ツ森市には無いけど、ハンバーガーなら、ファミレスの“ガストン”でも食えるだろ。
「ファーストフード好きなのか?高校生らしいな」
「いや、好物はお茶漬けだよ。時々それで夕御飯を済ます位だし」
あ、やっぱ年寄り臭い。横から佐藤がそれでは駄目だと突っ込みを入れる。
今日は私の家で食べていくようにと口を出す。うんうん、仲が宜しい事で。
しばらく互いの他愛もない情報を交換した所で、不意に車が近付いて来て停車する。
その車は、優しい黄緑色をしたタクシーで、市内を走る無料タクシーだった。運転席から顔を覗かせた年配の男性は石竹と佐藤の知り合いらしく、挨拶を交わす。

「君達。今帰りかい?」

「おじさん。こんちわ。今から佐藤の喫茶店に寄っていくんだ」と石竹。軽く会釈をする佐藤。そしておじさんと呼ばれた人物がこちらにも視線を向ける。あまり見かけない顔だね?同じ高校の同級生かな?と優しく質問してくる。
「はい、石竹くんとは同じクラスメイトやらせて貰ってます。お仕事ご苦労様です」
そうか、と笑うタクシーの運転手。年齢は40代位だろうか、見ようによっては30代に見えなくも無い事から実年齢よりは若く見える。結構渋い。
「私は、見ての通り市内タクシーの運転手。杉村誠一、石竹くんとは小さい頃からのお友達……いや、親みたいなもんだよな?」と視線を石竹に送り同意を求めるが、石竹は照れ臭そうにして返事を渋っている。「おじさんは……杉村おじさんは、小さい頃仲が良かった友達のお父さんで、その時から付き合いだ」と俺に求めていない説明をしてくる。
少し引っ掛かったのが、仲が良かった……と過去形であった事だ。まぁいいか。
よかったら送っていくよ?という杉村おじさんの好意を迷惑がかかるからという理由で何度も断りを入れる石竹と佐藤。多分、佐藤の方は一緒に歩きたいんだろうな、石竹と。
石竹の方は、迷惑がかかると本当に思っているみたいだ。いい奴だな本当に。

で……まぁ、結局強引な杉村おじさんの押しを断り切れずに結局タクシーに乗っけられる事になって、道中石竹の過去話を聞かされたりした。その話の最中、終始顔を赤らめている石竹と微笑む佐藤には和やかな雰囲気を感じた。ん?待てよ?小さい頃から知り合いという事は、あの事件の事知っていたりするのかな?まぁいいか、これは他人が触れる事では無いし、気の性か杉村おじさんの思い出話の中に石竹の両親の話は一度も無かった。
溺愛する娘の話が7割を占めていたけどな。今は日本には居ないらしいから、きっと寂しい思いをしているのだろう。さっき過去形だったのは、今は日本に居ないという事か。

佐藤の自宅前でタクシーを降りる俺達。
あまりこの辺には足を運ばない俺の為に、簡単な商店街への道のりを描いた地図と、おじさんの携帯番号が書かれた名刺を渡してくれた。何かあったら遠慮なく利用してくれていいそうだ。子供を守るのが大人の義務らしい。間違い無くいい人だな。

西岡の駅から離れた所にある佐藤の実家、“佐藤珈琲”(さとうこーひー)は駅前の繁華街や、商店街とは違い人気の少ない所にあった。付近に住宅やマンションも少なく、歩道には等間隔に植林された木々が間引かれて居心地のいい雰囲気が漂う。そこにひっそりとそれでいてそこはかとない存在感が佐藤のそれに似ているように思えた。
外観的には暗めの茶色を基調とした木造造りのプレハブ小屋のようなデザイン……一般的に想像する日本の喫茶店のイメージとそれほどかけ離れてはいない。建物の構造的には住宅スペースを含む為、結構大きめである。
お店のドアを佐藤が開くと、喫茶店ではお馴染みの来客を知らせるドアのベルがカランコロンと音を立てる。なんか、いい。喫茶店って高い珈琲を味わうだけの店かと思ったけど実際のところ、お店の雰囲気も味わい深いものがあるのかも知れない。
店内を見渡すと、外観の期待を裏切る事無く、落ち着いた木造造りで日本らしさを損なわない程度の洋風な造りはまさにザ・喫茶店と言ったとこだ。入り口近くにカウンターがあり、窓側にはテーブル席が立ち並び、奥にはカウンターが設置され、店内を区切る仕切りは程良く設置され、最低限の区別化が行われている。店内の隅には観葉植物が適度に設置され、天上には大きなファンというか、プロペラが3つ回転している。このプロペラの意味は他にエアコンも完備されている為、いまいち解らない。空気を循環させる為にしては弱すぎる回転だし、おそらくオブジェとして設置されているのだろう。
店内の照明は、天上からぶら下がっている球体の白熱灯がメインで柔らかい温かみのあ
る明るさを演出している。白色蛍光灯は一切使われていない事は、店主のこだわりだろう。この雰囲気はこの近くにあるファミレスでは到底出し切れないものだ。

俺が辺りをキョロキョロ見渡していると、服の袖を佐藤に引っ張られてカウンターの方に案内される。既に石竹は着席済み、さすが馴染みの客の様だ。
「えと、カウンター席だと、両親の眼が気になるから……あっちに座ってて?」
と店内の隅の方にある机の席を指さす。それに素直に従いその席を目指す俺達。

石竹とは向かい合わせに座る形になる。なんで男と喫茶店でお茶しなくちゃいけないのだ。出来る事なら美幼女と…いや、なんでもない。石竹がカウンターの方を見ている。それに吊られてそちらの方に顔を向けると、父親らしき人物と佐藤が話し合っている。年は40代後半といったところだろうか。いかにも喫茶店を経営してますといった風貌で、執事の様な格好にお店のロゴが入ったエプロンをかけている。

「えと、若草くんだっけ?」

お、何だか聞いてきたぞ。石竹くんがこちらに視線を向ける。

「なんで…」

と、そこに佐藤の母親らしき人物が水を持ってやって来る。
佐藤を数倍大人らしくして、綺麗に進化させた感じ。服装は執事服に近い感じの服装である。恐らくこのまま佐藤が成長してもこうはならない。佐藤の場合は、この先ずっと神様にBボタンを連打され続け、進化キャンセルさせられ続けさせそうな気がする。

「いらっしゃい、緑青くんに……こちらは?」

少し、困った様な表情をする石竹くん。君は本当に本心を隠さないね。でもそこがいい。
「佐藤のママさん、えっと、こちらは……クラスメイトの男子。」
へぇーと品定めをする様に俺の事を眺める佐藤の母親。いや、お姉さんでもいいんじゃないか?という感想はともかく、俺も負けじと佐藤のお姉さんを品定めし返す。
何やら両者の間で火花が無駄に散っているような気がするが、それを中断するように石竹が間に割り込んでくる。「ほらほら、店内で見つめ合わないの。他のお客さんも少ないながらいるんだから迷惑だよ」余計なお世話よ!と石竹を肘で軽く小突く佐藤母。
「君もなかなか男前だけど…コッキー(深緋)の好みは……やっぱり石竹君の方かしら?」
ぶはっ!と飲みかけていた水を吐きだす石竹。
「それは残念ですね……ハハっ」と軽く流す俺。
石竹はおしぼりを渡されて机を拭かされている。何と言うセルフ。

にやにやしながらカウンターに戻っていく佐藤母。厨房で仕込みがあるらしい。
喫茶店とは言いながら、結構メニューは豊富である。中には、佐藤家の食卓という特別メニューもあって……石竹に聞くと、その日の佐藤家のごはんのメニューがそのまま出て来るそうだ。

メニューに眼を通す俺に石竹は確信的な質問を投げかけてくる。

「僕と佐藤……どちらが目的だ?」

うん、なかなか確信を突くね、君は。佐藤に危害を加えないかどうか、無意識に警戒しているのだろうな。

「そうだな……特に目的は無いけど、折角2年生にもなったし、あまり関わりの無かったお2人と仲良くなれたらなぁと思っただけさ」

「嘘だ。佐藤が目的なんだろ?なら回りくどい真似は辞めろ、俺はただの友達だから俺の事は気にしなくてもいい」

ん?少し怖い……というか、一人称が僕から俺に変わったの気付いてるのかな?
嘘だってばれたか。俺が嘘をつく理由を普通に推測するなら佐藤が目的と捉えられても可笑しく無いもんな。実際の所、俺の趣向を話せる友達がほしかったのと、あの事件について少し聞きたかっただけなのだが……どう切り返したものか。無駄に怪しまれない為にもここは正直に答えるか。

「誤解させたのなら謝るよ、俺の目的は佐藤では無く、君だよ」

ガラスのコップが割れる音が店内に響く。
石竹の表情は固まったまま、手にはグラスが固く握られている。

割れたグラスは……喫茶店の店員が持ってきたグラスの方だ。

「あれ?もうグラスは出てたか……ハハ、あ、大丈夫、さっきの会話聞いてないから!」

慌ててグラスを拾い集める佐藤。
石竹は、それを静止して大きな破片を佐藤の持ってきたトレイに丁寧に集めると、佐藤に掃除用具と雑巾を持ってくるように指示する。佐藤の耳は赤い。というより、喫茶店の店員の制服……落ち着いた感じの昔の正統派メイド服の装いで、頭にはヘッドドレスもつけている。髪は学校の時とは違い、解いている為、軽くウェーブがかかっている。

佐藤は俺と眼を合わせようとせず、何かを呟いている。

「え、えぇ、本当にあるんだ、こんな事。しかもこんな近くで……
かなちゃんに見せて貰ったB…Lだっけ?あれ本当にあるんだ、わわわ……」

完全に誤解されたようだ。

事態収拾の為、約15分程有する。

石竹の隣に座る制服姿の(ここでは学校の制服では無く、喫茶店の制服を指す←メイド服)
「いいか、俺は断じてノーマルだ。女の子が好きだ。それは理解出来たか?」
自分の身が潔白である事を様々なエピソードを交えてなんとか説得する事に成功した俺。
「それは…解ったわ」
「けど、僕が目的って言うのはまだ解らない。なんで今なんだ?」
「うーん…そうだな…俺がこの1年、クラスメイトを1人1人観察して思ったのだが、クラスの中でお前が一番寛容力が高そうだったからだ。一見、押しの弱そうな感じだが、見方によってはそれは器の大きさの現れ、人の意見をまず受け入れ、認めてからお前は話をする。無自覚だと思うがな」
佐藤と石竹が視線を交わす、2人ともそうなのかなぁ?と言った表情だ。
「僕が寛容……?多分、何事にも執着心が無いだけだと思うけど……」
「いや、そこがいい。最近の若者と言えばやれ自分はどうだとか、学校内での評判がどうだとか、成績がどうだとか、彼氏が彼女がどうだとかばっかりだ。その点お前はそれが無い」俺はズバッと指を石竹に向かって指す。終始困り顔の石竹。
佐藤が変わりに答える。「無個性……キャラが薄い、いや存在感が薄い?没個性キャラだから?」それにへこむ石竹。
「あのなぁ、若草は誉めてくれるのに、親友のお前はなんで俺に批判的なんだよ」と突っ込む石竹。 「ごめんごめん、本当の事言っちゃ不味かった?」と自分の頭を叩く佐藤。親友と呼ばれた佐藤の表情は少し曇り気味だ。

石竹が改めてこちらの眼を見て話す。

「それで……僕が仮に寛容だったとして、若草に何の得があるんだ?」

そうだな、そこを答えないとやはりいけないか。佐藤が邪魔だが仕方ない。どうせ石竹経由でバレるのだから仕方無い。

「理由は2つある。」

うんうん、と頷く2人。
あまり大きな声で言えないので、手招きして顔をこちらに近付けさせて小声でその事を伝える。石竹は怪訝そうな顔で、佐藤は何やら顔が青ざめているようにも見える。

「……どうやら俺は、重度のロリコンらしい」

その言葉を聞いて固まる石竹。
とは対照的に佐藤は、上げていた腰を椅子に下ろし、なんだ、そっちか……と安心した様に座りなおしている。

石竹が左手の拳を握り、右腕を佐藤を庇うように突き出す。佐藤は困惑している。

「お前!やっぱり佐藤が目当てなんじゃないか!!」

店内に響き渡る石竹の声。ん?何その過剰リアクション。さっき俺は佐藤が目的で無いと話したはず……佐藤を改めて見てみると……くりくりとよく回る大きな瞳に、ぺったんこな鼻と胸、薄い色素の唇に小さな顔。外見的には中学生でも通りそうな容姿は……まさにロリ系?

今度は逆に俺を指さし宣言する石竹。

「そういう事か!お前が俺に近付いたのは、同じロリ趣味の男子だと思ったからだな!
確かに佐藤は童顔で、背も低くてガリガリで、胸もまな板だけど……辞めとけ!
中身は結構きつい……ぞ、ぐはゅ!」

佐藤の装備していたシルバープレート(おぼん)が唸りを上げて石竹の顔面にクリーンヒットする。

「誰がロリよ!!」

鼻を押さえながら石竹が答える。
「え、お前ロリじゃないの?」
「え、そ、そりゃ……クラスメイトと比べて確かに色んなとこ貧層だけど、って何言わすんじゃーい!!」本日ニ発目入りました。

意識が朦朧とする石竹は、周りの客席を見渡し、中年の男性と老人、大学生の男2人組に同意を求める。

「佐藤は……この子はロリ系元い妹系ですよね?意義の無い方は挙手を」
と佐藤を指差す。

ほとんどの客が常連なのか、微笑ましく笑いながら全員が手を挙げる。

「そんな……この私が世間からそんな目で見られていたなんて……」
愕然と机に突っ伏す佐藤。

「満場一致で、佐藤が妹系という事に決定しました。おっと、奥の方でご両親も顔を出して手を挙げています。なんという事態、佐藤以外全員手を挙げております」

「そんな、最悪だわ。私はてっきり自分の事をお姉さんキャラだと思っていたわ。
近所のおばさんには最近深緋ちゃんはすっかりお姉さんだねぇ、って言われたのに。
ごめんね、浅緋……お姉ちゃん、お姉ちゃん失格だわ……」

浅緋(あわひ)?佐藤に妹がいるのか?

石竹は、練撃で受けた衝撃で鼻血が出て来たので机にある紙ナフキンを丸めて鼻に詰めている。紙が固いのか少し痛そうである。妹がいるのか……今佐藤は高校2年生、最低でも1年生……最高は小学生……。これは、もしやその子とお近づきになるチャンスでは!?

「なぁ、佐藤!今、お前の妹さんって何歳なんだ?」

何故か口元を押さえてハッとした表情をする佐藤。なんでだ?

「あれ?お前……妹……が?」

「居ないわよ!!」

と、今度は渾身の力を込めて石竹の頭を叩きノックアウトさせる。
その後ですぐさま此方を睨むと、つま先で脛を思いっきり蹴られた後に、真剣な表情でこちらに囁きかける。

「貴方、私達……元い、石竹くんと仲良くなりたいんだったら、私の妹の事は絶対に話さないで!いい?絶対によ?それに、うちの家族の前でも絶対に駄目よ?」

涙眼になっている俺は訳が解らなかったが、その佐藤の表情は真剣でありながら、どこか切迫した雰囲気を感じたので俺はそれを了承する。事情は今度個人的に石竹が居ない時に話してくれるそうだ。よし、まだチャンスはあるぞ。と俺はその時、馬鹿な事を期待していた。彼女はもう既にこの世には居ないのに。

意識が朦朧とする石竹をメイド姿の佐藤が献身的に態勢を立て直す。傍から見ると、献身的なメイドだが、実際はその本人が加害者だ。

「例えばの話だけど、私がロリ系だとしてよ?」不服そうに顔を赤らめながら話す佐藤。
「私には興味無いって事よね?」頷く俺。

「佐藤は、興味範囲外だ」

「じゃあロリコンって言わないんじゃ…?」

と、そこに窓際の席に位置する俺達の横を下校中の小学生の集団が横切る。
窓が邪魔だ、今すぐ外に出て彼女達と仲良くしたい。

外を見て、眼を輝かせる俺を不思議そうにみる2人。

しばらくすると、今度は下校中のセーラー服姿の中学生と思われる女子2人が通り過ぎていく。俺は微笑ましいものを見るように敬愛と慈しみを持ってそれを見送る。その1人、セミロングで前髪が切り揃えられた美少女と眼が合い、逆に手を振られてしまう。俺は一瞬何が起こったかを理解出来ずに固まってしまい、笑顔で返すのがやっとだった。

「今日、俺は死んでもいい」

状況を把握出来ない2人。疑問符がいっぱいの様だ。

「それはね……」

いつの間にか佐藤の綺麗なお母さんが2人の間に割り込むように座っている。
「ちょ、お母さん、重い!」「ちょ、僕の太股の上にお尻を置かないで下さい!」
迷惑そうな2人を尻目に、真っ直ぐとこちらを見て来る。さすが大人だ。もの解りがいい。

「若草くんだっけ?」

はい、と答える俺。

「それはね、ロリコンって言わないの。それにロリコンなら……キュートな子が好きな男の子ならクラスに一杯いるでしょ?」

頷く俺。

「一般的に大人達からロリと呼ばれている世代は、あなた達からしたら同世代なんだから、恋心を抱くのはさして問題じゃないのだけど……さすがに小学生や中学生が好きな男の子って、君のクラスにはいないでしょ?」

この理解され難い苦しみに深く頷く俺。

「それね、幼児愛者……“ぺド”っていうのよ」

俺達はその日、新しい言葉を覚えた、佐藤の母によって。
後に部活の顧問となるランカスター先生に聞いた所、ロリコンとぺドの明確な線引きは存在せず、ロリコンを名乗っても問題は無いそうだが、正確にはぺドフィル(児童性愛者)の方がしっくりくるらしい。ただ、俺のぺド度は病的なものでは無いらしく、そんなに気するものでは無いらしい。慈しみを持って接している分には問題無い、つまり、性的欲望の対象とはしていないらしいので大丈夫だそうだ。その感情は多分父親が子供に抱く親心に似ているらしい。よく解らないが。

まぁいい、その日俺はこいつらと友達になった。
佐藤の妹には触れないという変な条件付きでだが。

俺が聞きたかったのは、石竹の両親についてなんだがな。彼の昔を知るクラスメイトに聞いた所、過去に虐待を受けていたらしい。実は、俺も家庭内暴力(DV)経験者だから聞
きたかったのだが、まぁいいか。俺に暴力を振るう奴は母が離婚してもう居ないし、石竹も平和そうだ。これ以上日常を波立たせる理由も無いしな。時が来れば自然と話してくれるだろうし、俺はその日から気にしない事にした。

あ。結局この日は、佐藤のメイド服姿のお披露目だけで、特に接客の練習はしなかった。
後から聞いた話では、お客さん(石竹)をトレイで殴り倒した事で、両親の佐藤に対する接客力は−5の数値を弾き出していた。
posted by 管理人哀原 なつき at 14:46| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

メモ目次へ戻る
家ホームへ戻る
本アドノベルホームへ戻る
アートスキルアートギャラリーホームへ戻る
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。