文芸社

2012年04月11日

第5章 邂逅T

※ハニー=レヴィアン

今日から私は八ツ森市立高校の生徒になる。何とか間に合った。手続きはさすがに正規のルートを辿れなかったけど特に問題は無いみたい。ぐずぐずしていたら、彼はこの町を離れてどこかに行ってしまうかも知れない。この高校に彼が入学したという情報はパパからだ。あの後もずっとパパは彼の事を心配して影ながら見守り続けてくれていたみたい。パパには今度私のお手製の料理で御馳走を振る舞わなければいけないわね。感謝します、パパ、そして神様。あぁ、楽しみだわ。住み慣れた故郷を離れるのには少し勇気は必要だったけど、ここ日本も言うなれば第二の故郷というところかしら。
この土地の空気は7年間も留守にしていた私の事も忘れる事無く受け入れてくれた。なんて幸せな事なの!私の新しい生活が新学期と供に始まるんだ。制服はまだ英国でのものを着用していて、なんだか後ろ髪を引かれる思いはあるけど、そんな些細な事はどうでもいいの、私はこの目で確かめなくちゃいけない。彼が生きているという事実を。そして私達はもう一度お友達になるの。ろっくん、会いたかった。でも、彼は私の事、覚えてくれているかしら……7年も経ってこんなになっちゃった私の事、嫌いになったりしないかしら……すごく心配。

心配と言えば、ママやゼノヴィアに黙って日本に来てしまった事。少し反省しています。
大丈夫…大丈夫よね。

パパと私が住む家の玄関を開けると、八ツ森市特有の新鮮な空気が家の中に流れ込んでくる。その香りは僅かにあの森の事を思い出させる。この市は八方を森に囲まれている。外敵からの侵入や災害に対してはすごく強いけど、裏を返せば出るには困難、堅牢なお城は堅固な牢獄でもある一面を見せる。一生私達を逃さない為の。大丈夫、大丈夫だ。あの男は今頃留置所の中だ。出て来れる訳が無い。私の幸せな生活は今日から始まるのだ。もう何にも怯えなくていい、大好きな人の隣に居られる幸せ。そんな夢の様な生活が待っているのだ。私はもう苦しんだ。だからこれ以上はもう……。



4月10日の出来事だ。

佐藤のメイド服デビュー元い喫茶店でバイトデビューの日から10日ほど経ち、若草ともなんだか仲良くなれて来た気がしてきていた時期に彼女は突然僕の前に現れた。それが神様による運命の悪戯か、超常的な因果の力により引き寄せられた奇縁なのかは解らないが彼女が僕の高校、しかも僕のクラス2年A組にその姿を現した。

その日、8時15分を過ぎても教室に現れない担任、荒川静夢に違和感を覚える僕達を余所に何食わぬ顔で入って来る30代の担任女教師、何の悪びれも無く飄々と教壇に立つと何やらにやにやしている。まぁいつもの事なので、僕等クラスメイトは気にしていない。
「お前ら、新しい教室には慣れたか?2階から3階に変わった高度が変わった位で、内装もほぼ変わりない。そこにいるメンツも1年の時と何一つ変わらない。お前ら、飽きて来ないか?」その少し乱暴ともとれる質問に首を横に振りながら否定する生徒達。
「今日、何か変わるんですか?」と生徒の1人が担任の読めない表情に戸惑い質問する。
「さぁ、何だろな…知りたいか?」ハイ!と素直に答える生徒。
担任がしばらく間を焦らして楽しんでいると、それに耐え兼ねた教室の中央付近に座る学年代表が荒々しく立ち上がる。(クラス委員長では無く、2年全体の代表という事なので、生徒会に於ける権力も相当強い)「田宮 稲穂(たみや いなほ)」だ。
彼女は廻りくどいのを非常に嫌う。「先生、それ以上勿体ぶるのは辞めて下さい」
「あら、いいじゃない、先生は楽しみは後にとっておくタイプなのよ、稲穂ちゃん」
「なら交渉決裂ですね、先生!早くその扉の前でさっきからウロチョロしている転校生らしき人物を紹介して下さい!彼、もしくは彼女にも迷惑です」
「行き急ぐな若者よ……ってそうね、彼女にも失礼よね?」
クラスメイト全員が入口の扉の方を見る。角度によっては見えない為、丁度田宮稲穂のいる席から見える窓の外に人影が映っていたんだな。それより、転校生か。少しはこの変わり映えのしない高校生活に刺激を……。
「タイムアウトらしいぞ、転校生!早く入ってこーい!」手招きする担任。
もぞもぞと人影近くの窓から見えて木造の扉が開かれる。転校生と呼ばれた彼女がゆっくりと皆の前にその姿を現す。
生徒全員、暖かい眼で転校生を歓迎する和やかな雰囲気ではなかった。それは何か異形の者を目にする恐怖にも似た未知の存在に対する戸惑いが見せる躊躇だろ。クラスメイト全員が一様に息を飲んだ。静まりかえる教室。その時、僕は2つの理由で思考が停止していた。この教室に入って来た転校生は紛れも無い、昔の友達で、7年経って成長したその姿はどこか規格外であり、日本人離れ……は半分異国の血が混じっているから仕方ないとして、人間という種としての規格を越えた存在の様に思えた。人間と言うよりは、人形と言った方がしっくりくるその容姿は、数年前と変わらずに輝きを湛えている蜂蜜の様な色合いをしている優しい黄金色をした髪の色に、深い緑色……僕の名前と同じ緑青色をしたあの目が変わらずにそこにあった。雨の日のあの公園で初めて会ったあの時の色と同じで
僕は少し安心した。が、それ以外の骨格というか、パーツと言うかその色合い以外は完全に子供のものから少女のそれへと変化していた。女性と言うにはまだ早く、少女と呼ぶにはあまりにも魅力的な肢体がそこに存在していた。遠い昔の記憶、誰かが彼女の事を天使と呼んだ気がした。
色素の薄い白い肌は透けて見えそうな位に儚げで憂いを帯び、その桃色をした唇と小さいながら形のいい鼻に、長い睫毛が瞬きをする度に光の瞬きを起こす。沈黙の中、凝視されるクラスメイトに戸惑い、頬を桃色の染める僕の昔馴染み、名乗らなくても解る。
彼女は僕の幼馴染、ハニー=レヴィアンだ。

僕が、ハニーと声を発しようとした瞬間、彼女自身から名前が語られた。
「……えっと、あの、皆さんコンニチワ。杉村 蜂蜜(すぎむら はちみつ)です。
こんな髪と眼の色だけど、日本語は話せます。だから、そんなに警戒しないで……」
下さい。とペコリとお辞儀をする杉村蜂蜜。ん?ハニーじゃないのか?いや、待て待て、杉村はおじさんの名字出し、蜂蜜って……ハニーの和訳で、英国人って和名と英名って使い訳?その僅かな躊躇が声をかけるチャンスを棒に振ってしまった。
立ち上がる学年代表 田宮 稲穂。杉村を名乗る彼女の足元を指差し注意する。
「貴女!靴!!それ下履きじゃないの!?」
慌てて顔を田宮に向けた杉村は、驚愕の顔をして田宮を凝視する。
「靴?シタバキ……?(ゲタ……?)」疑問符が一杯の顔をする杉村。
「いえ、これは英国に居た時から愛用しているローファー、日本の女子高生もよく履いていると聞いた事が……」生徒全員の足元を見る杉村。「白い……スニーカー?あ、選定を私、間違えましたか?」あたふたする杉村。そこに担任が口を鋏む。
「おいおい、稲穂ちゃん、いくら彼女の美しさに嫉妬しているからって、文化の違いを盾に攻めるのは良く無いぞ?」改めて杉村を見ると担任が軽く謝罪する。
「杉村、ごめんごめん、上履きを渡すの忘れてた。日本じゃ家に上がる時は靴を脱ぐだろ?それと同じ様な感じで、校舎内に入る時は靴箱で上履きに履き替えるんだ。後で渡すから、足のサイズを教えてね?」「ハイ!申し訳ござらんです!!」
何故か古風な謝り方をする杉村に生徒の笑い声が教室で弾ける。先程までの神秘的な空気が嘘の様だ。いや、台無しかな?杉村は「うぅ、きっと何か間違えたんだわ……これが文化の違い、民族の壁ね……」と小さく呻りながら手元にある鞄を抱きかかえて顔を疼くめる。
珍しく笑う田宮稲穂が、目に溜まった涙を拭いながら杉村に挨拶し直す。
「ごめんなさい、あなたに悪気が無かったように、私にも悪気は無かったのよ。生徒会関係の仕事をしている分、変に細かくなってしまってね……お詫びに私の権限の元、気の効かない担任の代りにクラスメイト42人全員に自己紹介させるわ?あとで名簿も渡すわね」
コクリと頷く杉村。笑いに包まれているクラスの中、僕以外に表情を変えていない者が
もう一人居た。隣の席に座る佐藤だ。どうしたんだろ?まぁいいか。
僕達は、田宮の指示により自己紹介させられる事になった。担任は、田宮に気が効かないと言われた事に対抗して、教室内にある自分の席にある椅子を杉村に貸してその場に座らせる事にしたらしい。ムードはすっかり杉村歓迎モードだ。
「私は 田宮 稲穂 、皆からは……様付けで呼ばれたり、影の政府だとか、2つ星とか言われているわ。貴女は好きに呼んでくれていいけど、様付けだけはやめてよね?一応生徒会に所属して、学年代表もやらせて貰っているわ。杉村さん、今は仕方ない所もあるけれど、落ち着いたり環境が整ったらしっかりと校則は守ってよね?」と釘を刺す田宮。さすがである。と、次に出席番号1番から順番に自己紹介する様にと名指しされる1番の生徒。ちなみに僕は2番だ。覚えているのかな?彼女は……僕の事。と、自己紹介が始まる前に僕は担任に杉村の上履きを職員棟の担任の席まで取りにいくように指示される。確か最近発注したものの中でそのサイズが余っていたらしく、それを取ってこさせようという魂胆だ。何故に僕?担任に渡された紙切れには杉村の靴のサイズが書かれていた。
口に出してつい言おうとした瞬間、担任に口を塞がれた。「靴のサイズも乙女にとってはなるべく伏せて置きたい数字なんだよ、心得な童貞くん」うるさい!と静かに突っ込みを入れる僕はそそくさと教室を後にする。

扉を開けて出て行く瞬間、視線を感じてそちらに振り向く。そこには光を湛えた杉村蜂蜜が居た。暫く視線が交差する僕達。その表情から僕は何も読み取れない。声をかけるか躊躇した瞬間、出席番号3番の男子生徒の紹介が終わり、それに答える形でお辞儀をする杉村。こちらを見ていたのは気の性だったのかな?それに7年も前の事、もう、彼女にとっては過去の事なのかも知れない。少し寂しくなりながらも、僕はフッと微笑んで教室を離れる。彼女の上履きを職員棟の担任の席から見つけ出し、帰ってくると自己紹介の時間は終了しており、1限目の国語の授業は始まっていた。彼女はその日、席が無いので担任の席で授業を受ける事になったので、教壇を横切るのにはさすがに罪悪感を覚える。僕が彼女に上履きを渡す事が出来たのは1限目の後の休み時間だった。
それでも、やはり障害が付きまとった。噂を聞きつけた他のクラスメイト達がこぞって2年A組に押し寄せ、クラスメイトはクラスメイトで彼女を質問攻め、彼女は瞬く間にクラスの、元い、校内のアイドル的存在となった。彼女の少し世間ズレした所も、実の所、同性からの嫉妬心を緩和させるのに役立っていた。というか、彼女のその天使の様な容姿があまりにも人間離れ、規格外過ぎて嫉妬心すら湧いて来ないというのが本音の所だろう。僕はまるで芸能人に群がるミーハーな一般市民を掻き分けるような感覚で人の間を掻い潜り、上履きをやっとの思いで手渡す事が出来た。
「ぐぁ、は、はい!杉村!これ、担任から渡す様に言われてた……あ。あぁっ」
僕はも揉みくちゃにされながらその人垣の中に押し戻される。下手すりゃ怪我をしていた所だ。多くの喧噪の中、彼女は微かな声で僕の名前を呼び、お礼を言った気がした。

「なにニヤニヤしてるの?」と群がるファンに殺されそうになった僕を引っ張り出してくれた佐藤が声をかける。若草も俺は興味範囲外だが、確かに美しい存在ではあるな。と珍しく肯定している。
「ニヤニヤなんかしていない」正直、僕の心の中はもやもやした感情で一杯だった。
確かに綺麗にはなったけど、彼女がどこか遠い存在の様に思えたからだ。だから少し寂しい気持になってしまっていた。でもまぁいいか。これから時間はいくらでもある。彼女のファンが落ち着くまで我慢だ。今、仲良さげに話しても、変な噂が立っちゃ彼女としてはイメージダウン。幼馴染のあいつかどうか確かめるのはそれからでも遅くないか。別人ってことは無いだろうけど、え、何?昔遊んでた位で何さまのつもり?とか思われたら……一生立ち直れない。何故か暗い顔をする僕を心配して慰めるように肩をポンポンっと佐藤と若草に叩かれる。ん?どういう意味だ?確かに、傍から見たら、あ、絶対釣り合わないか。

数日後、休校日を挟んで週が明けた日、全体朝礼が体育館にて行われて正式に彼女の事が全校生徒の知る所となった。もちろん、教師がいる前にも関わらず男子生徒が色めきだったのは言うまでも無い。うちのクラスは田宮という学年代表が怖いので比較的大人しかったので注意は受けなかった。そして、時を同じくして紹介された新しい教師が校長先生によって紹介される。呼ばれて体育館の舞台裏にわざわざ隠れて出て来た人物が1人現れた。杉村に続き、どうやらまた外国人のようだ。

「ハーイ!日本の皆さん、ハジメマシテー!ゼノヴィア=ランカスターでーす。
彼女と同じ英国から来ました。ここへは、スクールカウンセラーとして新しく配属される事となりましたー。27歳独身貴族です!」
イエーイ!!とアメリカ様なノリで生徒に挨拶する英国人。それにまたもや色めきだつ男子生徒。あ、女子生徒もだ。
彼女は杉村が……静かに光輝く月とすれば、まさしく太陽だ。
その炎のように燃える赤髪に、青い眼、体から溢れ出たエネルギーが目で見えるような雰囲気を持つエネルギッシュな女性だ。白衣の下に来ている黒い服から無駄に主張しすぎている胸元が青春真っ只中の男子生徒には毒だ。しきりに男子生徒からはスリーサイズを聞かれている。おいおい、日本人の品格が疑われるぞ。
しかし、それにしても彼女から溢れる太陽の様な雰囲気とは対照的に、その肌の色は杉村のそれよりも白くまるで死人の様だ。特徴的な八重歯はどこか吸血鬼の様だ。そういう意味では彼女もまた月側の人間、夜の住人なのかも知れない。いや、オカルト好きではないが。その杉村はというと、何故かそのスクールカウンセラーの隣で腰を抜かした様に驚いた顔をしている。ん?知り合いだったのかな?それより、僕は寝むい。昨日、少しゲームをしすぎた見たいだ。

あぁ、ゲームもいいけど、新しく入る部活決めとかないとなぁ。今の生活の保障は20歳までだから大学に入れる保証は無い。就職の時、部活動に専念していましたっていうのは大きな+ポイント出し、軍部が潰れて帰宅部のままというのもなんだか印象悪いしなぁ。それにしても眠い。
この時はまだ気付くはずも無かった。この高校に訪れた新しい住人が僕の運命を左右する事など。この頃の僕は馬鹿だった。いや、あらゆる事から見て見ない振りをしていたのだ。答えはすぐ近くにあったのに。
しばらくして生徒全員にはスクールカウンセラーにより、軽いめの心理分析のテストが出題され、なぜか僕と佐藤と若草の仲良し3人組みが目を付けられて無理矢理「深層心理研究部(仮)」に入部させられた。相変わらず、転校生杉村蜂蜜は人気者で、なかなか声をかけ辛くなっていた。時々目は合うのだが……合ったら合ったですぐ目を逸らされてしまう。うん、不審がられているのかな?今は、とりあえず、彼女自身も新しい生活に慣れるのに大変だからそっとしておこう。あ、そうだ。こんど杉村のおじさんを見かけたら、話を聞いてみよう。それがもしかしたら手っとり早いかも知れない。それにこうして高校生活を送っていれば話かけるチャンスは幾らでもある。そう信じて疑わなかった。この時のこの軽い考えが間違っていた事に僕は後々後悔する羽目になるとも知らずにだ。

事件は起きた。
杉村が僕のクラスにやって来て10日程経った日だ。
“最初”の事件は僕のクラスで起きた。
posted by 管理人哀原 なつき at 16:29| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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