文芸社

2012年06月09日

第9章 たったひとつのれいがい

※杉村蜂蜜同好会規定(2012.6.5)
其1,我らは彼女を女神とし、崇拝する。
其2,汝ら女神に必要以上に近付く事無かれ。
其3,何度拒絶されても諦めるな、我らの人生は女神と供にある。
其4,女神を孤独にしてはならない。
其5,女神に危害を加える者を我らは決して許さない。
其6,同好会会員は女神の情報を共有する事。


ライバルと腕を競う杉村蜂蜜(楽しそう)
に加えて杉村同好会と鳩羽が小競り合い。(無益な争い)

東雲雀が現れて以来、2年A組の日常風景は少し変わった。
晴れて東雲のライバルと認められた杉村蜂蜜はことある事に彼女からの決闘を受けていた。毎朝の事はもちろん場所を選ばずにだ。いや、正確には東雲が木刀を片手に殴りかかってくるから、杉村としても敵と見なさざるを得ない訳だが。杉村の攻撃対象が今のところ東雲に集中しているからだろうか、心なしか教師や生徒の表情は穏やかだ。

さりとて今日も2年A組に硬質的な打撃音が響く。

「ふむ、やはりリーチが長い筈の私の一撃がお前に届かないという事は……」
常人の目では追えない程の東雲の木刀による突きが杉村を襲う。
それを目で捉える事無く寸前の高さで避ける杉村、リーチの長い東雲の懐に臆さず突っ込んでいく。が、あと一歩というところで大抵東雲は杉村から遠ざかるか、剣術以外の体術で彼女の態勢を崩すのだ。
「くっ、何故だ!私の間合いである距離であるにも関わらず、こうも攻撃が防がれてしまう!」杉村の悔しそうな言葉が教室に響く。焦っている杉村を見るのはなんだか新鮮だ。人間、不思議なものでこういう光景も毎朝続くと慣れてくるもので案外平気になってくる。なんだか微笑ましいもの見ているように鈍化されている自分とクラスメイトがそこに居た。

そういう意味ではあの東雲という子には感謝している。
横にいる佐藤が囁く。
「東雲さんって、男勝りだけど結構ファンが多いらしいよ?」
興味無さげに若草が答える。
「確かに身長高いし、足も長い。顔も整ってる方だし、スタイルもいい。
モデル体型ってやつだな。俺は興味範囲外だが」
「あなたにとってはそうよね。でも、あれで恋人いないのは何だか勿体無いわ。
素直で少し天然な所も男子にはポイントが高いらしいし。」
佐藤が羨ましそうな目で剣技を繰り出す東雲を見つめる。
おっと、杉村のトンファーが東雲の頭をかすめ、ヘアピンが弾け飛ぶ。
焦っている東雲が僕の席から見える。杉村はしたり顔になっている。
「ねぇ、石竹君はどっちが好み?」
え、僕に振るの?
僕は東雲と言う子をあまり知らない。とりあえず、顔を確認してみる。
うん、日本人の顔だ。ヘアピンが外れて前髪が下ろされた状態にある今は、少し清楚な感じがして結構好みかも。頬もなんだか赤くなっているし。
「鳩羽ぁ!そいつをよこせぇ!!」
東雲の怒号が教室に響く。少し距離を置いて杉村の近くに杉村同好会の面々と供に居た鳩羽は、慌てて持っていた木刀を彼女に放り投げるとそれを回転しながら受け取る彼女。
わざわざ回転したのは杉村に隙を突かせない為の配慮だ。杉村の表情が変わり、距離を置く。初めて見る東雲の戦闘スタイルに危険を敏感に感じ取ったらしい。
「二刀流?剣道なのに?」
僕の疑問の声を聞きつけた鳩羽が近くにやって来る。耳がいいな。
「東雲先輩の真価はですね、2刀流で発揮されるんです。本来の彼女は剣道と言うよりは“杖道”の使い手でもありますが、家系的に“二天一流”にその籍を置く人なんです」
なんだか嬉しそうな鳩羽。
「じょうどう?にてんいちりゅう?ってなんだ?」
「あ、杖道っていうのはですね……、まぁ剣道に似た感じなんですけど、主に木の棒や木刀を使用した武道で……二天一流っていうのはあの宮本武蔵が開祖した……」
「あぁ、宮本武蔵ね」話が長くなりそうだったので、何となく相槌を打って話を止めた。
対する杉村も、もう1本のトンファーを背中から取り出した。誰も突っ込まないけど、お前の背中は四次元か!って言いたい。じりじりと互いの間合いを測り、距離を詰めていく両者。固唾を飲んで見守る観衆。と、僕の視界に佐藤の童顔が映り込む。
「で、どっちが好みなの?」
あ、そうか、その質問の途中だった。
佐藤の後方で再び打撃音が幾つも炸裂している。
「好みで言うと、やっぱり杉村かな?」
「やっぱり!」何だかプリプリ怒る佐藤。
とそこにぞろぞろと同好会の面々が僕と鳩羽の元にやってくる。
「鳩羽くん!まだ私の話は終わっていないぞ!君も是非我が会に入会してくれたまえ!」
鳩羽が迷惑そうに首を振る。
「嫌ですよ、あんな会に入るのは。ただの振られた男子同士の慰め合いの会でしょ?
僕は、へこたれませんよ!何度気を失わされてもね!」
杉村同好会会長の先輩……細馬 奨(さいば しょう)が苦虫を潰したような顔になる。
「違う、我らは女神を崇め、見守る組織、言わば保護団体の様なものなのだ!ちなみにこれが会員証で特注して作って貰った。裏面には会員規定も載っているぞ?どうだ入らないか?」「嫌です。それに保護って……彼女はパンダじゃありませんよ。それに彼女は女神でもありません、どちらかというと天使のイメージです。彼女の事は天使と呼んで下さい!」「いや、女神だ!彼女の黄金の輝きは月の女神アルテミスを彷彿とさせる」「いえ、彼女のあの輝きは天使の光輪と白い翼をイメージさせます!」どっちでもいい。正直うんざりしていた僕は「トイレに行く」と言って席を立つ。
僕が席を後にすると鳩羽と細馬会長は掴みあいの喧嘩に発展してしまう。彼らは1つ穴の狢だというのに。対する僕はどうなんろうか。彼女にとって僕は同じ狢なのだろうか。以前ランカスター先生が話していた、彼女にとって僕は特別なんだと。
決闘中の杉村達の横を通り、後ろの扉から出ようとすると、大きな音がした。
杉村が東雲に剣技で僕の席近くまで吹き飛ばされてしまったのだ。離れてて良かった。
「これだ!この手応え!これを確かめたかった!」東雲の歓喜に震える声が響く。
杉村は手が痺れたのか、トンファーを両方とも床に落としてしまう。
武人である東雲はもちろんそんな杉村を攻撃する事は無いので安心して見て居られる。

ふと視線を杉村の後方に目を向ける。

お互いに夢中になって近くに女神天使が居る事に気付かない狢(むじな)が2人。ストーカー鳩羽とファン代表細馬先輩。。嫌な予感がする。あのトラブルメーカー共め。掴みあいの喧嘩をしていた鳩羽が細馬先輩に突き飛ばされて杉村の背中にぶつかってしまった。いわんこっちゃない。
彼女に対する警告無視の0距離接触は前例が無いが……恐らくそれは危険を意味する。僕はトイレに行こうとしていたが、慌てて引き返す。鳩羽が誰の背中にぶつかったのかを確認する刹那の時間、僕はそれを垣間見た。杉村のスカートが翻り、腿にベルトで固定されているナイフを取り出すと、振り向き様に鳩羽に突き刺そうとしているのだ。
「間に合えー!!!」
と自分では気付かないうちに大きな声を出して杉村にヘッドスライディングをする形で飛
び込む僕。目を瞑っていて僕は解らなかったが、教室内にいる誰もが僕の大きな声に反応していたらしい。クラスの注目を浴びながら、杉村にヘッドスライディングを決め込む僕。
数秒後の僕の命運は既に決まっているかも知れない。あの銀色に光るナイフが僕の体内にねじ込まれる未来。そうである確率は高かった。

数秒後、どうなったのかというと……

杉村は僕の声に動きを止めてくれたようで、しゃがんでいる状態で静止しているようだった。そして、あろうことか僕の頭は彼女のスカートの中にあった。僕が目を開けた時、暗幕の中自分がどこにいるかが解らなかったのはその為だ。彼女のスカートの中は……まさに武器庫でした。具体的には誰にも何も教えられないけど。いや、言ったら殺されるからね。意識を現実に戻す。彼女のか細い声がスカート越し、僕の上方から聞こえて来る。
「ろっくん……あ、あの……」
近くで鳩羽と細馬先輩の声が聞こえる。
「おぉ、女神が近くいるぞ!」
「天使です!いや、それより、僕がぶつかったのってもしかして杉村天使先輩?」
「ぐぬぬ!貴様、なんて羨ま……」
2人の会話がぴたりと止まる。
どうやら、今の状況を正確に把握したらしい。
「おい、鳩羽とやら」
「なんですか、先輩?」
「我らの敵は誰だ?」
「そんなこと言うまでもありませんよ。天使様の……」
「女神様の神聖なスカートの中に顔を突っ込んでいる不届き者」
「「石竹だぁ!!」」
2人の重なる声が教室に響く。その声に反応してクラスメイト数人の囁く声が杉村のスカート越しに聞こえて来る。
「(……え、あれ石竹くん?)」
「(さっきの声って石竹くんだったわよね?)」
「(真面目そうに見えて、石竹くん変態だったのね)」
「(…確か、前にも杉村の靴の匂いを嗅いで半殺しにされたらしいからな)」
「(なんて命知らずな奴だ)」
「(……あいつももしかして体育の前田みたいに消されるんじゃね?)」
対する杉村は、すぐ傍に鳩羽と細馬先輩が居るので引くにも引けず、かといって僕の頭が前にもあるから身動きが取れないでいた。そんな状況下、どうしていいものか戸惑い、体を揺らしている。そんな状況を打破してくれたのは例によって例のごとく学年代表の田宮
稲穂だ。その時ほど彼女に感謝した事はない。対する僕もその時は状況が飲みこめず、意識が混乱していたからだ。僕の両足を持って、杉村のスカートの中から救出してくれる。ずるずると情けないかっこで、這いずる僕。「よいしょっと。杉村さん、まぁ事故なんだと思うけど、石竹君をセクハラで訴える?」慌てて首を振る杉村。その表情はどこか転入時の彼女本来のものの様な気がした。後ろを振り返り、東雲にも注意を促す田宮。
「コラ、すず!あんたの事だから言っても聞かないし昔の好で大目に見ていたけど、周りを巻き込まないの!」と背伸びをして東雲に対して拳骨を落とす田宮。
「うぐ、すまぬ。つい本気で……」
「貴女もよく言ってるでしょ?制御出来ない力はただの暴力だって」
しゅんとする東雲。田宮は辺りを見渡して近くの落ちていたヘアピンを持ち主の東雲に渡す。田宮に礼を言うと、東雲は髪を留めだす。木刀も鳩羽に投げて返すと、自分の木刀の切っ先を杉村に向ける。
「今日はこれぐらいにしておいてやるが、いずれ決着はつけよう!」
対する杉村は対照的に困った表情で受け答えする。
「勝負の決着に興味はないの。出来る限り私には近付かないで下さい。いつか貴女は死にますよ?」制服の乱れをきちんと正す杉村。
その発言に対して自信満々に答える東雲。
「そんな短いナイフ1本で私に勝てると……」
慌てて僕は立ち上がると、はちゃめちゃな奇声を上げて東雲の口を塞いだ。
「思って……ふごほふ……む?(何をする?)おあえは(お前は)……?」
「石竹緑青。このクラスの住人で没個性君だ」
「むぅぅ……で?」
彼女の良すぎる動態視力は音速を超えそうな勢いの杉村の動きを捉え、その眼にナイフをしっかりと焼き付けていたのだ。これはまずい。
「(どうか、あのナイフの事はご内密に)」
「ふぐぐふぉ(なぜナイフの事を秘密に)?」
あ、ダメだこの人。ナイフを凶器とすら認識していない武道の人だった。
確かに木刀を持ち歩いているくらいだもんな。この子なら帯刀してても違和感ないけど。
「(でないと、彼女停学になってしばらく東雲さんと戦え無くなってしまいますよ?)」
「ふぐごご。(それは困る。了解した)ほにゃに?(お前は確か、何時ぞや杉村に隙を作った男子?)」
「え、あぁ……鳩羽が杉村にやられた時の事か」
「ん?」
何やら東雲は考え事をするように動きを止める。
「……」
「東雲……さん?」
すぐ近くでは田宮が2年A組に群がってきていた他のクラスの生徒を追い払っている。
「ほうか……ほういう事か……」
東雲がしばらく考え込んだ後、何かに気付いたようだった。
東雲は静かに僕の手を口元から離すとこう僕に囁きかけた。
「先程の件は了解した。石竹緑青くん。君のクラスで騒ぎすぎてすまなかった。
それもただのぬか喜びだったというのに情けない話だ。」
困惑する僕を余所に、その身を翻し教室から颯爽と出て行く東雲。
「ちょ、ちょっと東雲さん!杉村との勝負は勝ったんじゃ?喜んでいいと思うけど!」
僕は東雲の言葉が正確に理解出来ず、後を追う様に声をかける。
悲しそうに微笑みながら此方を振りかえる東雲。
「確かに勝負にはこれで2回勝てた。ただ、そのどちら供に君が協力してくれていた事に変わりは無い。そんな勝利に意味はないんだよ」
「僕が?」
こくりと頷くと自らの教室に帰っていく東雲。少し寂しそうな後ろ姿を眺める僕。
と、その時、再び教室から悲鳴が聞こえた。
慌てて2年A組の教室に戻ると、そこにはトンファーを構えた杉村蜂蜜の姿があり、床には細馬先輩の体が横たわっていた。
「何があった鳩羽!」
「細馬先輩が彼女に近付いて、気付いたらこうなってました」
おかしい。先程、鳩羽が背中にぶつかった時はこうはならなかった。

いや違う!

彼女は鳩羽にナイフを突き立てようとした。なぜそうならなかったのか。
それは僕が……。

先程の東雲との会話を思い出す。

数歩ずつ慎重に鳩羽に対して開会態勢をとっている杉村蜂蜜に近付く。
先程まで賑やかだった教室が一変し、生徒は息を潜めている。

僕の接近に気付いた杉村はこちらへ向き直る。

背後に居る鳩羽への警戒態勢は解けていない。
「石竹くん!辞めなさい!」田宮が静止する。
それを振りきる。

杉村蜂蜜が俯き気味に僕に返答を迫る。

「所属と氏名を答えて……」

僕の額に嫌な汗が滲み出る。
その質問には答えずに、更に数歩杉村に近付く。
いつの間にか杉村の構えていたトンファーは力無く垂れ下っている。
彼女への距離があと2、3歩という所まで近付いた時、再びあの質問が繰り返される。

「所属と氏名を答えて……」

更にあと一歩僕は近付く。
完全に彼女のパーソナルスペースを侵害している距離に侵入する。

佐藤からは悲痛な叫び声が聞こえて来る。
後ろからは田宮に背中を引っ張られる。
その手を振りほどき、僕は歩みを止めなかった。

彼女の息遣いがはっきりと解る距離まで近づく。

「所属と……」

ランカスター先生の“あなたは彼女にとって特別なの”という言葉を思い出す。
そして、彼女が転校してきてからの1ヵ月を振り返りながら僕はひとつの答えを導き出す。
彼女のか細い両肩に僕は両手を置く。
その瞬間、周りからは小さい悲鳴が聞こえる。
それもそうだ、何人もの男子生徒がこの距離に近付いただけで保健室送りにさせられてきたのだから。僕の一度は保健室……では無く、カウンセリング室に送られている。

俯いている彼女は無言だった。
俯き気味の彼女の頬には、金色をした睫毛がその影を落としている。
陶器のように白いその肌や蜂蜜の様な優しい輝きを放つその髪は当時と変わり無い。
脳裏に彼女との思い出が写し出される。
彼女と初めて出会った紫陽花が咲くあの公園。
いつまでも振り止まない雨。
黄色いレインコートに青い傘。

彼女の俯いていた顔がこちらの瞳を覗きこむ。
その頬は心なしか桃色に染まっている。

その瞳の色は僕の名前と同じ緑青色。

小さい頃、友達になった僕達は彼女のお父さんと一緒によく森で遊んだ。
僕等が小学生になると彼女に付きそう形で一緒に戦争ごっこを楽しんだ。

恐らく彼女も同じことを思い出しているのだろう。
彼女の他の生徒にまず始めにする質問は、最初から僕へと宛てられたメッセージだったのだ。彼女の精神がひどく混乱し、解離性障害を引き起こし、それでも尚、深い意識の奥底で僕の事を強く思っていてくれたのだ。

僕は彼女の両肩から手を離すと、一転し彼女に敬礼する。

僕が所属していた彼女の部隊名と自らのコードネームを思い出す。

「所属部隊HoneyBee(蜜蜂) 所属、コードネームSpirogyra(アオミドロ)であります!」

その場に居る全員が不思議なものを見るような目で此方を見ている。
それはそうだろう、当事者以外解らないのだから。担当医のランカスター先生でもだ。
2人だけに解る思い出が僕等にはあった。

彼女は一瞬驚いたような表情をした後、肩を震わせてその透き通るように綺麗な瞳から大粒の涙をポロポロと流し始める。それでも僕の事を真っ直ぐ見詰めたままの杉村蜂蜜。そのひとつひとつの涙が宝石のような輝きを持ち合わせていた。そして静かに言葉を彼女は放つ。

「用件を話して……」

少し微笑みながら僕は答える。

「ハッ!また昔みたいに仲良くしてほしいであります!
ホーネット部隊長殿!いや、僕の幼馴染、最初の友達、ハニー=レヴィアン!」

彼女は一度下を向くと何かを囁く。

「ダメ、ダメだよ、ろっくん。私に近付いちゃ……あぶないよ?
でも……だけど……会いたかった、ずっと会いたかったの!」

その言葉と供に彼女が僕に抱きついてくる。
それを静かに受け止める僕。

「僕もだよ」

目を擦りながら、僕の方に顔を近付けるハニー=レヴィアン。
「私の事、覚えてくれててありがとう」
「忘れる訳無いよ。僕の最初の友達を」
2人は泣きながら声を上げて笑いあった。

何時の間にか教室中は拍手の海に包まれていた。
何かよくわかんないけど、2人ともよかったな!と祝福してくれている。

杉村の肩越しに見える鳩羽や杉村同好会の面々は悲痛な叫びを上げている。

僕らはこの日、本当の意味で再会した。
彼女からは7年前と変わらない蜂蜜の様な甘い香りが漂っていた。

※ある男子生徒の報告5……彼女は僕の事を覚えていました。
追記:僕の推測はこうだ。
彼女のパーソナルスペースに僕(石竹緑青)が居る時にだけ 彼女は他の攻撃対象すらも無視して警戒態勢を解く。
つまり、ランカスター先生の仮定を採用すると、 攻撃的な性格の人格が対応している場合でも、 僕が彼女に近付き、それを彼女が認識さえしていれば
本来の彼女の人格に戻るのだ。
数回に渡る東雲との決闘に於いてもそれらは証明されている。 これで、なにかが変わればいい。僕はそう強く願った。


抱き合う僕等。
ふと僕が疑問を口にしてしまう。

「あれ?それって……僕が一生彼女の傍に居なければいけないって事?」

きょとんとした顔でこちらを見上げている杉村蜂蜜。
その美貌はこの距離でもいかんなく発揮されて眩暈がしそうになる。
僕はついついそれもいいかと思ってしまう。

「どうしたの?アオミドロ?」

「ううん、何でも無い……って!そっちの名前でこれから呼ばれるの?」

「いや?」

「“ろっくん”の方でお願いします」

彼女は微笑みながら用件を了承した。

「あ、そう言えば、なんで黙って僕の前から姿を消したんだ?
挨拶くらいしてくれても……」

怯えた様な顔を見せる彼女。

「あ、えぇっと、ごめんね?」

戸惑い気味の彼女は慌てて取り繕う様に答えた。
その表情がどんな意味を持っていたのか、僕は解らなかったけど、まぁいい。
今は友達と再会出来た事を喜ぶべきなのだから。

〜第10章へ続く
posted by 管理人哀原 なつき at 16:53| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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